「それは好きになったことを? それとも、断ったことを?」
「……断ったのは自分で決めたことだから後悔なんてしちゃだめだと思うし、後悔しても何も変わらないと思う。でも、好きにならなければこんなふうに困りはしなかったかな、とは思います」
 栞さんはため息をつくと、ベッドに肘をついて私を見た。
「翠葉ちゃん、どうしてそんなに我慢しちゃうのかな?」
「我慢、ですか?」
「うん。好きなら好きでいいと思うの。私から見ると、もっと楽な道があるのに、翠葉ちゃんはトゲばかりの茨の道を選んで歩いているように見えるわ」
 トゲばかりの茨の道……。
「楽な道はどれでしょう?」
「好きな人に甘えちゃえばいいのに。秋斗くんは受け止めてくれるだろうし、断られた今でも待ってくれているのでしょう?」
「――でも」
「……でも?」
 雅さんのことを栞さんは知らない。
「翠葉ちゃん、私知ってるのよ。検査の日、雅に会ったでしょう?」
「どうしてっ!?」
「あまりにも翠葉ちゃんがおかしいから静兄様を問い質したのよ。お兄様に限って調べてわからないことなんて何もないから」
「……そうだったんですね」
 あの日、帰ってきてからの記憶はほとんどない。
 どんな状態だったのかは翌日の湊先生や司先輩から訊いた話でなんとなくわかってはいるのだけど、そのときの記憶はないのだ。