「そこの前の人、CD一応聴いてるっぽいけど、聴いてない」
『何よそれ、ちゃんと日本語喋って』
「J-POPで聴音してやがりました。肝心なる歌詞にはまだたどり着いてないんだと」
『……ありえないでしょ』
 いやいや簾条さん、御園生を甘く見てはいけません。
「ありえるんですよねぇ、これが……」
『了解、改めて聴くように言っておくわ』
「そうしてください」
 海斗にも電話して同じような説明をしたけれど、
『チョウオンって何?』
 この一言で終了。
 チョウオン、とは聴音のこと。
 それは音を聞いて楽譜を起こす作業。
 別名ソルフェージュともいう。
 あぁ、なんてこった……。
 御園生はどこまでも御園生だった。