「翠葉ちゃん、起きれるかしら?」
 栞、さん?
 手の甲で目を擦りながら開けると、髪の毛を後ろでひとつに結んだ栞さんがいた。
「髪の毛、結んでる」
「さすがにこの季節は暑くて」
「……秋斗さんは?」
「今、蒼くんの部屋でデータ送信してるわ」
「……栞さん」
「ん?」
「人を好きにならなければ良かったって思ったこと、ありますか?」
「ないわね」
 即答……?
「恋って楽しいことばかりじゃないけれど、でも、失恋も苦い思いでも、すべて自分を成長させてくれる糧にはなったと思うから」
「糧……?」
「そう。恋をすると色んなことを考えない? それこそ、どうしたら好きになってもらえるかとか、かわいくなりたいとか。……翠葉ちゃんはそう思ったことない?」
 私は……。
「そこまで気持ちが追いついてない……。でも、隣に並ぶときには外見だけでも年齢差を感じさせたくないないなって思いました」
「それもそのひとつよ。でも、どうして?」
「……どうしてだろう」
「もしかして後悔しているの?」
 後悔……。
「そうかもしれないです」