薬を飲むと睡魔に襲われた。
「翠葉ちゃん、夏とはいえ風邪を引かないようにベッドへ戻ろう?」
 秋斗さんはそう言うと、いつものように横抱きに抱えて客間へと運んでくれた。
 恥ずかしさ以前に眠くてたまらない。少しでも気を抜くと瞼が閉じてしまう。
「……少し痩せたね」
 そうかもしれない……。体重も落ちているだろうし、動いてない分、もともとあってないような筋肉も落ちているはず。
「元気になったらまた森林浴に行こう?」
「本当……?」
「……本当。前にも約束したでしょう? また、外でランチしよう」
 秋斗さんの優しく甘い表情に、「はい」と答えそうになる。
「……どうしてそこで黙っちゃうのかな」
 行きたい――。
 すごく行きたいけど、やっぱりだめな気がする。
 でも、今は……今は具合が悪いから、看病してくれる人の側にいてもいい?
 眠くて頭がちゃんと働かない。
「何も考えなくていいから少し休んで? 俺、ここで仕事してるから」
 秋斗さんの手が顔に伸びてきて、目を瞑るように促された。
「あ……でも、携帯鳴るしキーボードの音がうるさいかな」
 秋斗さんは独り言のように口にする。
 何も言わなかったらすぐに部屋を出て行ってしまうような気がした。