クスクスと笑う声が聞こえてきて、
「お姫様が床に転がってるのはいかがなものかと思うんだよね。せめてソファにしてもらえない?」
 と、抱き上げられてしまう。
「白衣がいいです、って言ったのに……」
「じゃぁ、どうしてそんなに真っ赤なの?」
「……秋斗さん」
「なんでしょう?」
「私、今、逃げ場がないので――お願いだからいじめないでくださいっ」
 私をソファに下ろすと、
「そんなに困る?」
 コクコクと、頷く私の傍らで、秋斗さんは自分のスーツ姿を眺める。
「しょうがないな……。確かに上着は着てると暑いし……」
 と、ジャケットを脱いでソファの背に掛けた。
 そしたらスラックスにワイシャツ姿になって、少しだけマシになった。
「これならいい?」
 秋斗さんはネクタイを緩めながら訊いてくる。
 でも、その仕草にすらドキドキする。
 答えられない私を秋斗さんは困った顔で笑い、ラグに胡坐をかいて座る。
「部屋にいなかったからびっくりした。リビングを見渡してもいないし」
「……空が、見たくて……」
 ソファに横になってしまうと、向かいにあるソファの背もたれで空が半分は見えなくなってしまうのだ。
「空?」
 秋斗さんは窓を振り返り、空を見た。
「あっちのお部屋じゃ曇りガラスで見えなかったから……」
「そっか。幸倉では翠葉ちゃんの部屋は南向きだもんね」
 家でもベッドに寝たままでは空は見えない。それは同じ。でも、ベッドに横になったままでも芝生や地面に植わる花は見ることができた。
「蒼樹が帰ってきたらここのソファの位置を変えてあげるよ。そしたら床に転がらなくてもいいでしょう?」
「……でも、ここのソファ重いんじゃ……」
「うん、だから蒼樹が帰ってきたらね」
 と、クスリと笑われた。