「翠葉ちゃんっ!?」
 男の人の声……?
 目を開けようとしたらすごく眩しくて、今一度目を閉じる。
 でも、顔に影ができたことを察して目を開けた。
「っ…………」
「倒れていたわけじゃないっ!?」
 私の顔を覗き込んでいるのは秋斗さんだった。
 私は秋斗さんを見て絶句する。
「翠葉ちゃん……?」
「……あの……あの……どうして白衣じゃないんでしょうか」
 やっと出てきたのはそんな言葉だった。
「え? あ、服装?」
 急に降って沸いた秋斗さんはダーク系のスーツを身に纏っていたのだ。
「今日は朝から重役との会議でね、昨夜蔵元にうるさくスーツ出勤を言い渡されてたんだ。着替えてきても良かったんだけど、思っていたよりも遅くなっちゃったからそのまま来た」
 どうやっても視界から秋斗さんを追い出すことができなくて、顔を両手で覆う。
「……翠葉ちゃん、そんなに見たくないでしょうか――」
「……見たくないです。白衣の秋斗さんを希望しますっ」
 顔を覆っているというのに、鮮明に秋斗さんのスーツ姿が脳裏に浮かび上がる。
 チャコールグレーに細いストライプが入ったスーツ。似たようなスーツを蒼兄も持っている。
 白地に細いストライプが入ったシャツに濃紺のネクタイ。レジメンタルがシャープさを引き立てる。
 夏らしい爽やかな印象だった。
 どうしよう――心臓が壊れちゃう。