「……私、よっぽど起きなかったのね」
 栞さんは基本的に起こすときはきちんと起こしてくれるのだ。
 でも、薬を使っている今は、人に起こされても起きれないことが多い。
 早くこの時期が終わってほしい……。
 もう一度携帯を見て時間を確認する。
 十二時半過ぎ……。
 あと数十分もすれば秋斗さんが来る時間。
 少し悩んだけれど、携帯だけを持ってリビングへ行くことにした。
 四つんばいで這って行く分には移動ができないわけじゃない。
 自分にあてがわれた部屋に不満があるわけではないけど、やっぱり空を見たいと思う。
 リビングのソファにたどり着いたときには息が切れていた。
 どうしようもなくだるくて体が鉛のように重い。
 なんとか窓際までたどり着き、ソファの後ろに転がる。
 そこから見える空はとても広くて大きかった。視界を邪魔するのはベランダの手すりのみ。
 でも、秋斗さんの言うとおり。今日は曇りだった。
 これから秋斗さんが来て何を話したらいいんだろう……。
 一緒にいてお話なんてしたらもっと好きになってしまいそう。
「怖い、な……」
 どう接したらいいのかがわからない。
 それが今の心境だ。
 湊先生は秋斗さんを避けて通るのは至難の業だと言っていた。
 確かにそう思う。避けて通れるような人でないことはわかっているつもりだし、蒼兄とのつながりを考えても、ここに間借りしていることを考えても、距離を取れる相手ではない。
 学校へ行ったとしても図書室へ行けば必ず顔を合わせることになるだろう。
 ……かといって、開き直れるほどの強さは自分にない。
 もしも相手が嫌いな人だったりなんとも思っていない人ならこんなに悩むこともないんだろうな……。
 私、どうして秋斗さんを好きになっちゃったんだろう……。
 ごく普通に同年代の人を好きになれたら良かったのにな――。