「悔しいなぁ……」という翠葉の言葉すら珍しく感じるのは気のせいではないだろう。
「翠葉……? もしかして、今の藤宮司?」
 わかっていはいるけれど、確認せずにはいられなかった。
「ん? うん。ツカサと昇降口で一緒になったの。もうね、ひどいんだよ? 血圧が下がったらすぐに座れとか、図書棟に移動するときは海斗くんか桃華さんと一緒に行けとか……」
 言いながら、翠葉は教室の後ろのドアを開ける。
 そして、眩しそうに教室を見渡してから一歩を踏み出した。
 数日前に病院へ行ったときにも感じたけれど、とても自然体……。
 そんな印象を受ける。
 そして、あの男も――。
「藤宮司、喋るようになったわね……」
 思わず口をついた。
 学校であんな会話をしている姿を見ることになろうとは……。