「翠葉は確かに大切な妹で、心配だってしているし、何かがあったからこそ記憶がなくなったんだと思う。そう思えば秋斗先輩を恨まないこともない。でも――なんだろうな……。あの先輩が理由もなく翠葉を傷つけるとは思えないんだ」
 それが正直な気持ち。
 何をしてくれた、とは思った。
 でも、それは短時間のこと。
 俺の知る限り、先輩は翠葉を傷つけようと思って行動したことは一度もない。
 ただ、先輩の行動に翠葉が対応できなかった。
 そういうことが続いただけのこと。
 それに、近頃は何が翠葉の負担になるとか、そういうのだってわかっていたはずなんだ。
「あんちゃん、俺が数日間忙しくしてた理由知りたい?」
「え?」
「秋斗さん、あの人、行方不明になってた」
 真正面のなんの飾りもない壁を見たまま、唯が小声で言った。
 向こうの人たちには聞き取れないボリュームで。