「若槻さん、これ……」
私は枕元に置いてあったティッシュの箱を若槻さんに向ける。
泣いてると思ったから。
下を向いて唇を強く噛みしめて――。
けれども、顔を上げた若槻さんはにっこりと笑っていた。
「泣いてないよ。俺、泣けないんだ」
「え……?」
びっくりしてティッシュの箱を落としてしまう。
泣いていると思ったのは錯覚……?
確かに、若槻さんの顔には泣いた痕などどこにもない。
若槻さんは私が落とした箱など気にも留めず、
「はい、お兄ちゃんより記念すべき第一回目のスープです」
と、口もとにスプーを差し出される。
ほとんど条件反射で口を開いた。
「俺ね、十九のときに両親と妹を亡くしてから一度も泣いてないんだ。……ひどいだろ? それこそ血も涙もないような人間でね」
と、悲しい出来事をあっけらかんと話す。
「葬式が終わってからは位牌や骨壷をコインロッカーに入れてたような人間なの」
「あのっ――」
「聞きたくない? そりゃそうだよね。人に聞かせるような話じゃないし、今食事中だもんね」
「そうじゃなくてっ、話したくないんじゃ――」
「話したくないわけでも話したいわけでもないんだよな……」
「無理はしないでください……」
「……リィも無理して笑うでしょ?」
それを言われると少しつらい。
そしてまた口もとにスプーンが運ばれてきた。それを飲んで思う。
この人はまるで私と鏡のようだ、と……。
私は枕元に置いてあったティッシュの箱を若槻さんに向ける。
泣いてると思ったから。
下を向いて唇を強く噛みしめて――。
けれども、顔を上げた若槻さんはにっこりと笑っていた。
「泣いてないよ。俺、泣けないんだ」
「え……?」
びっくりしてティッシュの箱を落としてしまう。
泣いていると思ったのは錯覚……?
確かに、若槻さんの顔には泣いた痕などどこにもない。
若槻さんは私が落とした箱など気にも留めず、
「はい、お兄ちゃんより記念すべき第一回目のスープです」
と、口もとにスプーを差し出される。
ほとんど条件反射で口を開いた。
「俺ね、十九のときに両親と妹を亡くしてから一度も泣いてないんだ。……ひどいだろ? それこそ血も涙もないような人間でね」
と、悲しい出来事をあっけらかんと話す。
「葬式が終わってからは位牌や骨壷をコインロッカーに入れてたような人間なの」
「あのっ――」
「聞きたくない? そりゃそうだよね。人に聞かせるような話じゃないし、今食事中だもんね」
「そうじゃなくてっ、話したくないんじゃ――」
「話したくないわけでも話したいわけでもないんだよな……」
「無理はしないでください……」
「……リィも無理して笑うでしょ?」
それを言われると少しつらい。
そしてまた口もとにスプーンが運ばれてきた。それを飲んで思う。
この人はまるで私と鏡のようだ、と……。


