「翠葉……?」
 心配そうな蒼兄の声。
「……何?」
「大丈夫か?」
「……大丈夫だよ」
 少し笑みを添えるだけなのに、表情がうまく作れない。思うように頬は緩んでくれない。
「……泣きたいときは泣いていいし、無理に笑わなくていい。無理に大丈夫なんて言わなくてもいいから」
 額に大きな手が乗せられる。
 その手があたたかくて、余計に涙を誘う。
「お姫――リィはなんで泣いてるの?」
「なんで、でしょう……。時間の流れが、ゆっくり過ぎて……かな」
「時間の流れ?」
 健康な人にはわかってもらえないだろうか……。
「……人ってさ、つらいときや嫌なことやってるときって時間が進むのがゆっくりに感じたりしない?」
 蒼兄が言うと、「あぁ、それならわかるかも」と若槻さんは答えた。
 そこへ栞さんの声が割り込む。
「蒼くん、そのスープは若槻くんにお願いしたら?」
 え……?
「あぁ、そうですね。若槻くん、頼める? このスプーンで一口ずつしか飲めないんだけど」
 と、トレイを指差す。
「最初は蒼くんがお手本を見せてあげたらどうかしら?」
 栞さんはそう言うと部屋を出ていった。
「……あーぁ。その役、俺がやりたかったのに……。しょうがない、若槻に譲るか」
 言って、秋斗さんも部屋を出ていき、その場には私と蒼兄と若槻さんが残された。