部屋に戻るためにドアを開けると、さっきとは違う空間になっていた。
 三つのストーブの小窓から見える炎が火柱のように見える。
 炎がゆらゆらしていてきれい。
 けれど、それらが際立つほどの暗さに足が竦む。
 洗面台の上に灯るランプはほのかな光でぼんやりと足元を照らしてくれる。
 けれども、あまりにも優しい光はドアを出た三十センチくらいのところまでしか届かない。
 部屋の奥を見るも、キャンドルの近くに人影は見えない。
 不安に思って声を発した。
「秋斗さん……?」
「ここにいるよ」
 右側からはっきりとした声が聞こえた。
 それは私の立つ場所から五歩くらい離れたところ。
 暗闇から手が差し出された。