別にそれまでがとても速かったわけではない。
 どちらかというなら、ゆっくり歩いてくれていたと思う。
 それでも私が躓いてしまっただけで……。
 森を抜けると、ステラハウスの中からホテルの従業員が出てきた。
「ごゆっくりお過ごしください」
 と、その人は腰を折り、音を立てないようにドアを閉めた。
 室内には三つのストーブがついていて、キャンドルもオイルランプもすべてが灯っていた。
「うわぁ…………」
「人工の明かりじゃないのがいいよね?」
「はい、すごく優しい光――」
「ま、あたたかくなるのに時間はかかるし、火を使う以上、無人っていうわけにはいかないけど、この光の演出は好きかな」
「私もです……」
「じゃ、俺は向こうで着替えてくるね」
「はい」