「記憶のことだが、何を思い出した?」
「前にここへ来たときのことを少し。でも、いつもと思い出し方が違ったから――」
 だからびっくりしたのだ。
「記憶、戻りつつあるのか?」
 驚いた顔をされる。
「全部じゃないです。まだ全然足りない……。会話の一フレーズや何かの一シーンとか……。パズルのピースみたいな感じで、前後関係がわからないようなものばかり」
「いつから?」
「記憶らしきものの夢なら、夏休み中に病院で何度か見ました。自分が起きて行動している中で思い出すようになったのは学校へ通い始めてからだと思います」
 先生たちは記憶に関することを訊いてくることはなかったから、私もあまり話すことはなかった。
 それに、思い出すといっても説明ができるような思い出し方ではなかった。
「翠葉ちゃんはもしかしたら記憶が戻るのかもしれないな」
「……思い出せない可能性もあるんですか?」