「あのね……ブライトネスパレスに来ているのに、すごくきれいな景色を見ているのに、写真が撮れないの。どうしよう……これ、お仕事なんだよね?」
『……なるほどなぁ。撮れないか』
「うん……でも、撮らなくちゃ……」
『翠葉、そういうのはさ、撮ろうと思って撮れるもんでもなかろ?』
「でも、お仕事……」
『翠葉、静はこう言わなかったか? 焦って撮りためる必要はないって』
「でも、ここの宿泊料もタダって……」
 それは私がそれだけの対価を払えてのことなのではないだろうか。
『父さんが静に出した条件はひとつ。翠葉に必要以上のプレッシャーを与えるな、そう言った』
「え……?」
『期日に追われた仕事ってのはさ、あまりいいものじゃなかったりするんだよ。たまたま思いついたものを形にしてみた。そしたらいいものだった。父さんの仕事もそんなことが多い。……父さんは、音楽も写真もインテリアも似たようなものだと思ってる。プロはそれをクリアできてこそプロだと思うんだ。でも、翠葉はプロじゃない。それを担ぎ出そうとしている静には、そこを配慮してくれって言った。静は仕事の鬼だからさぁ……下手したら翠葉のことだって追い詰めかねないと思って。ついつい釘刺しちゃったんだ』