「お嬢様……?」
「え、あ……」
 言葉に詰まっていると、蔵元さんはコンクリートに膝をつき、私を見上げるような体勢になった。
「どうか気負わないように」
「はい……。あの、蔵元さんひとりお留守番でごめんなさい」
「お気になさらず。これで二日間は羽を伸ばせます」
「……そうなんですか?」
「はい。誰かのお守りや誰かの使いぱしり。誰かの――」
 にこにこしながら話す蔵元さんの首に腕を回したのは、寒々しいほど爽やかに笑う秋斗さんだった。
「蔵元、土産はないと思え」
「最初から期待などしておりません」
 蔵元さんは飄々と答える。
「ただ、運転だけはお気をつけください」
 そう言うと、秋斗さんは蔵元さんを解放した。