秋斗さんが助手席のドアを開けたとき、前方から一台の車が入ってきた。
「蔵元……?」
 秋斗さんが少し嫌そうな顔をした。
 ロータリーに車が停まると、運転席からはびしっとスーツを着た蔵元さんが降りてきた。
「秋斗様、こちらの書類にサイン漏れがひとつございます」
 蔵元さんはブリーフケースからひとつの書類を取り出した。
「そのくらいどうにでもなるだろ」
 秋斗さんは蔵元さんから書類を受け取りサインを書き入れた。
「どうにもならなかったとき、サインだけをいただきに、二時間もかけて馳せ参じるのはご遠慮申し上げたいので」
 蔵元さんはにこりと笑って書類をしまった。
「そのほうが秋斗様もお嫌でしょうから?」
 角度を変えた蔵元さんは私へと向き直り、
「気負わずに楽しんできてくださいね」
 その言葉に、忘れていたことを思い出した。
 単なる旅行じゃない……。
 私は自分が撮った写真の記憶を思い出さなくてはいけないのだ。