話の成り行きを聞いていた蒼兄が、
「じゃ、その時点で翠葉が藤宮に入ったの知ってたのか?」
「いや、先日名前を聞いてびっくりしたんだ」
「だったらその時点で俺に連絡くれればいいものを……。おまえ、消息不明期間長すぎて水没した俺の携帯からメモリ消えたぞ?」
「……蒼樹ってそんなにドジだったか?」
 言いながらスーツの内ポケットからカードケースを取り出し、
「ほれ、名刺」
 と、蒼兄に渡すとこちらを見た。
「空太は迷惑かけていませんか?」
「迷惑どころか、私が面倒見てもらってくらいです」
「そうですか」
 と、にこやかに答える。
「葵さぁ……口調が――」
「まぁ、気にするな。仕事なんだよ、仕事」
 と、蒼兄と話すときだけ口調が砕けたものになる。
「崎本さんには黙っててあげるわよ?」
 栞さんが言うと、
「んー……職場でボロを出すのが怖いんです。自分まだ新人なんで……」
 崎本さんとはそんなに怖い人なんだろうか。
 さっき声を聞いた限りだと、とても誠実そうな人という印象しか受けなかったけれども……。
 でも、高崎さんは空気が高崎くんと同じで柔らかい。
 なんだろう。お日様みたいなあたたかさ。ほかにたとえるなら柔軟剤とか……。
 とにかく柔らかい人。
 きっと、お姉さんのサトミさんという方も同じ空気を纏っているのだろう。