あ……。
「肩車してくれたお兄さん?」
「そうです。肩車のお兄さんです」
 うわあああああ……。
 肩車のお兄さんは覚えている。私が泣きやまず困っていたお母さんのところに蒼兄ともうひとり一緒に来て、「翠葉ちゃん、初めまして」と声をかけてくれたのだ。そして、
「ほら、肩車してあげるよ」
 と、肩に乗せてくれた。
 お父さんより背の高い人を見るのは初めてで、一生懸命見上げたのを覚えている。
 どんなに顔を思い出そうとしても夕陽の逆光でシルエットしか浮かばない。ただ、すごく背の高くすらっとした人だったことは鮮明に覚えている。
 そして、お父さんがしてくれる肩車よりも高くてびっくりして、もっと遠くを見られないかな、と遠くで陽が落ちるのを見ていた。
「顔とか名前とか、全然覚えていないんですけど、肩車のお兄さんは覚えています。……やだな、なんだか恥ずかしい――」
「球技大会の日に空太からメールが届きまして、珍しいなと思ったら、『どうだ! かわいいだろっ!』って翠葉ちゃんの写真が添付されてました。『彼女か?』って訊いたら『違う』って。『一緒のクラスになった外部生』って返事がきました」
「あら、かわいいわね? お姉さんの里実さんはマンションで知り合いだけど、弟がいるなんて初耳」
 栞さんが好奇心たっぷりに話す。