「はい。――ありがとうございます。今から下ります」
 栞さんは携帯を切ると、
「薬は持ったしお水もOK……」
 手荷物を確認すると、
「じゃ、行きましょう!」
 その声に蒼兄が動き、横抱きに抱えてくれた。
「大丈夫か?」
 訊きながら、すでに歩き始めている。
「ん……」
「下に下りればすぐに横になれるから」
 けれども、すでに吐き気は始まっていた。
 蒼兄の肩に顔をうずめてそれに耐える。
 冷や汗が伝い始めてもまだエレベーターにすら乗っていない。
 エレベーターホールに着くと、
「葵……?」
 疑問符がついていそうな蒼兄の声に視線を移す。と、エレベーターには背の高い人が乗ってドアを開けてくれていた。
「久しぶり。ま、どうぞどうぞ」
 と、その人は言う。
「高崎くん、ありがとう」と言ったのは栞さん。
 私たちが乗り込むと、すぐにドアは閉じられた。
「こちらコンシェルジュの高崎葵くん。コンシェルジュの中では一番の若手よ」
 紹介をされた高崎さんは、「高崎です」と短く挨拶をした。