「……困る。翠がいないと困る。誰が計算やるんだよ」
「そんなの、電卓があれば困らないじゃない」
「一緒に練習しなくちゃいけない歌だってあるだろ」
「一曲だけだもん」
「伴奏してもらう曲を含めたら二曲」
 わかってる……。
 こういうの、「ああ言えばこう言う」って会話だ。
 それでも、「困る」って言ってもらえて嬉しかった。
「翠がいないと困る人間たち――」
「え……?」
「生徒会のメンバーが困るって」
「……でも、私が抜けてもそんなに大きな穴は――」
「開くんだよ。うちの生徒会で俺に文句を言えるのは翠くらいだから。俺への文句は翠に言わせるっていうのがメンバーの常套手段」
 そうなの……?
「だから、翠がいないと困る人間はいる」
 必要のされ方は意外だったけど、それでも「必要」という言葉はとても嬉しい響きだった。