お昼前になると蒼兄に起こされた。
「具合、悪いんだってな」
 と、少し表情が歪む。
「嫌な期間に入っちゃった……。もう、体も起こせないみたい」
「今日、荷物取りに家に行くけど、翠葉はどうしたい?」
 ゲストルームでしばらくお世話になる、というのは、お泊りというよりもお引越しに近いものがある。
 学校の教材やピアノやハープの楽譜、それからルームウェアや多少のお洋服。
 少し考えただけでも持ってきたいものはたくさんあった。
 蒼兄も同じようなものだろう。
 それに加え、パソコンを連動させるというのなら、それなりに大掛かりな作業があるのだろうし……。
 でも、今の私が行ったところで何ができるとも思えない。それなら、持ってきて欲しいものをリストアップするほうが足手まといにならずに済む……。
「車に乗るまで我慢してくれるなら、ここから下まで抱っこしていくよ。しばらくこっちにいるともなれば、持ってきたいものだって結構あるだろ?」
「……うん。でも――」
「翠葉が楽するためにここに来るんだ。だったら、快適に過ごせるようにするのは怠れないだろ?」
「私、わがまま言いすぎてない?」
「こんなの、わがままのうちに入らないよ」