「翠葉ちゃんがいつかこう思える日がくるといいな」
 栞さんは少し悲しそうに微笑む。
「私が、そう思える日……?」
 少し自分を振り返る。
 この体で良かったことなんてあるのかな。……何もないように思える。
 けれど、ひとつだけ――私が気づいているものがあるとしたら……。
「私、一年留年して良かったと思いました。あのまま光陵高校に通えたとしても何もいいことはなかったと思うんです。一年留年して、また高校に通いたいと思って――」
 すごく悩んだし、高校を選ぶのにも時間がかかった。通信制を選ぶ覚悟もした。
「蒼兄が……蒼兄が藤宮を勧めてくれて、両親の説得もしてくれて、四月からこの高校に通い始めて、初めて友達ができて、友達がとても優しくて、球技大会がとっても楽しくて、生徒会にも入らせてもらえて――今、確かにつらいけど、この体がなかったら出逢えない人がたくさんいた――」
 話していて涙があふれ出す。
 その涙を一粒一粒栞さんが拭き取ってくれる。
「……もう、気づいているのね。ねぇ、翠葉ちゃん。人はつらい思いをするためだけに生きているんじゃないのよ。絶対にいい時期があるの。だから……一緒にがんばろうね」
 私は頷くことしかできなかったけど、今、このつらい時期に栞さんの過去を聞けて良かったとも思った。
 そのあとも他愛のない話をしながら、ゆっくりとカップ一杯分のスープを飲ませてくれた。
 薬を飲むと、少し休むように、と言って栞さんは部屋を出ていった。