眩暈ならまだかわいかった。
 今は、体を起こして心臓よりも高い位置に頭を持ってくると途端に血圧が下がる。ゆえに起こる吐き気――。
「スープくらいは飲めるかしら? もちろん寝たままでいいわ。少しずつ口に入れてあげるから」
「飲んでみます」
 枕元に置かれた携帯を見れば、横になっているときの数値はさほど悪くない。けれど、低血圧発作を起こした直後ということもあり、脈拍は軽く百を超えていた。
 今までは病院のモニターでないとわからなかったのに、今は手元の携帯でわかってしまう。
 思わず苦い笑いがもれる。
 モニタリングできてもできなくても、結局自分が動けない状態になることに変わりはない。
 始まってしまった。決して逃れることのできない期間が。
 自分が真っ黒に塗りつぶされないように、少しでも白い部分を残せるように、そこに僅かな光を見出せるように、私は自分の心を守らなくてはいけない。
 痛みも吐き気も何もかもがつらい。でも、一番つらいのは心。
 この心だけは私が守ってあげなくちゃ……。
 でないと、私はきっと周りの人を傷つけてしまう。
 高校に入ってから、私の周りには大切な人がたくさん増えた。
 手に入れるのを怖いと思うほどに大切で、一度手に入れてしまうと手放せなくなるほどに大切で……。
 そんな人たちを自分の言葉で傷つけたくなんかない。
 心を守りきれなくなったら、きっとすごくひどい言葉を吐いてしまう。
 それだけは絶対に避けたい。
 だって、大切な人を自分が傷つけるなんて、そんなの自分が耐えられない。
 気づいたときにはすべてを失ってるとか、そういうのは嫌――。