私は桃華さんたちに背を向けた状態で話していたため、みんなが笑っていたことは知らなかった。
「河野くんがね、ツカサと付き合い始めたのかって訊くから、違うよって話をしていたの。名前を呼び捨てにするとそう思われるものなの?」
「……さぁ」
「ツカサ先輩に戻したほうがいいのかな?」
 瞬時にツカサの歩く速度が上がった。
「ちょっと待ってっ! 足の長さが違うんだからそのあたり考慮してよっ」
 一年A組の前を通り過ぎ、テラスへと続くドアを目の前にしてツカサがピタリと足を止めた。
「何?」
「ルート間違えた」
「え?」
 間違えたって……テラスに出てそのまま歩いていけば図書棟のはずなんだけど?