「蒼兄、飲んで? 私、栞さんのおうちに泊らせてもらうから帰りのことは考えなくて大丈夫」
 言うと、蒼兄の表情がパッと明るくなった。
 こんな蒼兄を見るのは初めてだ。
「じゃ、遠慮なく……」
 と、ダイニングテーブルに着き、静さんの向かいに座ってお酒をグラスに注ぎ始める。
 ダイニングテーブルに着く面子に、先日うちでお酒を飲んでいたときのことを思い出す。
「栞も飲まないか?」
「そうねぇ……こんなふうに時間を取れる機会もなかなかないし……」
 言いながら私を気にしているのがわかる。
「栞さん、大丈夫。私、栞さんのおうちなら少しは慣れていますから」
「んー……でも、翠葉ちゃんを送ってきてからにしようかしら」
 すると後ろから、司先輩の声がかかった。
「お茶飲んだら俺が送っていきます」
「あら、お願いできる?」
「かまいません」
「じゃ、飲もうかな」
 と、戸棚からもうひとつ切子グラスを取り出した。
「翠、早く座る。立ったままだと血圧下がるだろ。これ以上下げてどうしたいの?」
 司先輩の携帯をこちらに向けられた。
「わ……すみません」
 考えてみたらここにいる人は静さんを抜かせば皆が皆、バイタルチェッカーなのだ。
 おとなしくラグに座り、栞さんに渡されたカップに口をつける。
 リンゴのような甘い香りと熱すぎない液体が口に広がり、喉を通ってゆっくりと食道へ流れていくのがわかる。
 その感覚に落ち着く。
 文字を見ただけで動揺していたら、また周りの人に心配をかけてしまう。
 もっと――もっと、しっかりしなくちゃ……。