ショパンを弾いたときよりも軽いタッチで軽快な音を奏でるように弾く。
 これだけ重い鍵盤というのは弾き慣れなくて、微妙な力加減がうまくいかないと感じる。もっと上手に弾きたい。もっと、もっと――。
 ピアノの音と自分の感覚にのみ意識を向けていると、ここがマンションの一室で、聞いてくれている人がいることを忘れそうになる。
 曲が終わって拍手が聞こえてきて気づく。私の周りにたくさんの人がいたことを。
 お父さんとお母さんと蒼兄、栞さんと司先輩、湊先生と静さん。
 優しい人がたくさん……。
 私、体はつらいけど、人には恵まれてる。こんな場所を用意してくれる人がいる。
 やっぱり何か考えなくちゃ……。
 私が周りの人に返せる何かを。
 探し物は探さないと見つからないのよね?
 ――Nothing seek sought nothing find found.
 "探さなければ見つからない"。
 探そう……。ちゃんと探そう――。