「あぁ、ハープは後日自宅からこちらへ運ばせるよう手配しよう」
 最後の奥の手まで押さえられてしまった気分だ。
「自宅のピアノのほうが好きだと言うなら、それも運ばせるが?」
 どうしてか、どんどん追い詰められている気がしてくる。
「静、あなたはいつもやりすぎなのよ」
 静さんに言ってから、お母さんは私に向き直った。
「翠葉、今は好意に甘えてしまいましょう? 学校に通いたいんでしょう?」
 まるで幼い子を諭すように言う。
 そこへ口を挟んだのは湊先生だった。
「翠葉、こっちから言い出してるんだから迷惑じゃないのよ。 好意よ、好意」
 最後、追い討ちをかけるように、「なんなら国語辞書貸すけど?」と司先輩。
 それの意味するところは、「迷惑と好意を混同するな」という意味だろう。
 蒼兄を仰ぎ見ると、
「翠葉が決めていいよ」
 私が、決める……?
「翠葉がどういう道を選ぶか……。より良い選択肢が加わったってところだよ」
 これは本当に甘えてもいい場所?
「翠葉ちゃんがここに住んでくれると打ち合わせの場所に困らないんだがな」
「あの……本当にいいんですか?」
 司先輩以外の人たちが笑いだす。
「翠葉は俺に似て謙虚なんだ」
 と、お父さんが口にすれば、
「絶対に違うわよ」
 と、お母さん。
「反面教師の間違いじゃないか?」
 と、付け足したのは静さんだった。
 そんなやり取りを見て、同級生なんだな、と思う。
「どうする?」
 改めて静さんに訊かれ、
「よろしくお願いします」
 と、頭を下げた。
 学校へはできる限り通いたい。
 そして、ここに来ることで周りの人への負担が軽くなるならば、それ以上の選択肢など存在しない。
 どこまでやれるのか――。
 ――You never know what you can do till you try.
 できるかどうかなんてやってみないとわかりはしない……?
 そうだ、まずは試してみよう……。