……姉さんにもこの部屋から出るように言われたか。ならいい……。
 俺が風邪をひく分には問題ないけど、母さんが風邪をひくと長引く。
 ゆえに、「風邪の人間母に近寄るべからず」という暗黙のルールがある。……にも関わらず、風邪を持ち込んだ俺は父さんに睨まれることを避けられそうにはない。
 ――ついてない。とことんついてないだろ、俺――。

 母さんが俺の様子を見にきたのが十時で今は十一時。すでに姉さんが来ている。
「司が熱なんて珍しいわね? 四十度よ? 四十度。これで癌細胞も死滅よ。ついでに脳細胞もいくらか死ぬわね」
 言いながらくつくつと笑う。
 腕には点滴が刺さっており、珍しく、自分の血液ではないものがそこを流れていた。
 冷たい液体が少しずつ体内に流れ込んできている。
 不覚――こんなのは十年ぶりくらいだと思う。