インターホンを押すと、蒼兄が出迎えてくれた。
「翠葉、大丈夫か?」
「うん……どうかな」
 苦笑を返し、リビングへと促される。
 リビングには両親と静さん、湊先生に栞さんが揃っていた。
 栞さんが、
「午前三限まで受けたんですって? がんばったわね」
 と、優しく声をかけてくれる。
「休んじゃえば良かったのに。私に似ず真面目なんだから」
 と、言ったのはお母さん。
「容姿はそっくりなのに、性格はどうやら違うようだな」
 と、言ったのは静さんだった。
 促されるままにラグへ座る。
 そこはキャメル色したソファの真横で、そのままソファに体を預けることができた。
「湊先生から色々と話を聞いたよ。この際、好意に甘えてしまわないか?」
 そう切り出したのはお父さんだった。
「でも……」
「私たち学生結婚だったのは知ってるでしょ? そのときね、ここの下の階に住まわせてもらったことがあるのよ」
 と、お母さんが話し出す。
「下の、階?」
 そういえば、司先輩が静さん専用のエレベーターは十階と九階に停まると言っていた。
「翠葉ちゃん、私の家だけは九階と十階がメゾネットになっているんだ。そこの階段から下に下りられるよ。間取りは変わらず4LDKだけど、強いていうなら翠葉ちゃんが好みそうなものがおいてある」
 静さんの物言いは自信たっぷりだった。
「グランドピアノ、スタインウェイが置いてある。母の形見なんだ」
「え……?」
 お母様の形見? でも、栞さんは実家で柊子先生のお手伝いをしてるって――。
「翠葉ちゃん、私は後妻の子どもなのよ。静香さんという方が静兄様の実母で早くに亡くなられているの。だから私と静兄様の年の差が十五歳」
 と、栞さんが説明してくれる。
 ふたりは異母兄妹だったのだ。
 顔のつくりが全く違うことに納得し、さらには年の差にも納得した。
「私は週にニ、三度しかここへは帰って来れないし、誰に気を遣うこともないよ。蒼樹くんも一緒にこへ泊るといっているし、もとより九階はゲストルーム仕様だからいつでも使えるようになっている。隣の部屋は楓が使っているし、上の階にはこのメンバーだ。何があってもすぐに対応できるだろう。学校へ通う負担も少なくなる。いいこと尽くしだと思うけど、どうだろう?」
 どうだろう、ってすでに外堀を埋められている気がしてならないのは気のせいだろうか。