「司、その先は俺が話す」
「そうしてよ……事細かに話してよ。どんなにひどい会話をしたのかさ」
 ベッドサイドを離れ、ソファの方へと移る。
 翠が俺を目で追っていることには気づいていた。でも、あえて目は合わせなかった。
 静さんが翠の名前を呼ぶと、痛いほどの視線は剥がされ、秋兄が話し始めると、翠は身体ごと秋兄の方を向き、聞く体勢に入った。
「どうしたんだ?」
 静さんに読唇術で訊かれる。
 自分も同じように声にはせず、唇に言葉を乗せた。
「タイムリミットまで時間がない」
 あとは自分で考えろ……。
 ここが病院だということを静さんも秋兄も、翠も忘れていると思う。
 ここは病室だ。
 病人がいるんだよ、この部屋にはっ。
 その病人に無理をさせてどうするんだっ。
 本末転倒だろっ!? 少しは気づけよっ――。