「本当は起きてらっしゃるのでしょう?」
 秋兄がいたときは無駄口を叩かなかった人間が、秋兄がいなくなった途端に口を開いた。
 無視を決め込むと、
「どこまでも気の回る人ですねぇ? そんなんじゃ将来苦労しますよ?」
 そのあとは藤山の一角にある自宅まで何も喋らなかった。
 けれど、車を降りるときに一言だけ――。
「世話になりました」
 礼は言うべきだと思ったから。
 この人にだって通常業務があるはずだ。
 ゼロ課という課がどういう規律のもとに働いているのかはわからないけど、この二日間、俺と秋兄に費やした事実は変わらない。