湊先生の家に入ると、案内されたのはテスト勉強で使っていた部屋。
 即ち、司先輩が間借りしている部屋だった。
「もうひとつの部屋は本だらけですぐに使えないから」
 と、説明してくれる。
 私が何も答えずにいたら、「不服?」って感じの視線が飛んできた。
「いえ、とんでもない……」
「心配しなくてもシーツもタオルケットも全部洗濯済み。柔軟剤の香りしかしないと思う」
「あの、何もそこまで考えてはいないんですけど」
「…………」
 あ、黙った……。
 かばんを取り上げられ、とっとと横になれ、と言いたそうな顔をしている。
 ベッドに腰掛けると、何か思う節があるようで、「ちょっと待ってて」と部屋を出ていった。
 数分もせずに戻ってきたその手に持っていたものは着替えらしきもの。
 それは黒いTシャツとグレーのレギンスだった。
「Tシャツは俺のだけど、レギンスは姉さんのだから。それならサイズもさほど困らないだろ」
 確かに。このTシャツは私が着たら間違いなくチュニックの着丈になるのだろうし、そこへ湊先生のレギンスをはけば、膝下がくしゅくしゅした状態のスキニーになる。
「何から何まですみません……」
「着替えが済んだらドア開けて。俺、あっちで飲み物用意してるから」
 本当に気が利くというか、なんというか……。これって普通なのかな?