六人で昇降口まで行き、各々の行く方へと散らばっていく。
 海斗くん、飛鳥ちゃん、佐野くんは部室棟へ。桃華さんは梅香館こと図書館へ。
 私と司先輩はマンションへ向かうため、校門へと続く桜並木を歩いている。
「あのさ、すでにかなり危なっかしいんだけど……」
 隣から呆れたような声がする。
 確かに、足元が覚束ないというのはこういうことを言うんだろうなぁ……と思いながら歩いていた。
「せめて腕か手くらい掴まって歩いてほしい」
「すみません……」
 差し出された左手に右手を重ねる。
 でも、この仕草は秋斗さんを思い出して少しつらい。
「視界は?」
「大丈夫です。ちゃんと小石だって見えますよ」
「それ、足元見すぎだから……」
 私道を出るまでに十分。公道に出てからマンションまで十分。
 普段なら上り坂が少しつらいと思うくらいなのに、今は少しつらいどころかひどくつらい。それに、物理的な距離は変わらないはずなのに恐ろしく遠く感じる。
 歩道を歩いていると、車のクラクションを鳴らされた。
 でも、私たちはきちんと歩道を歩いている。
 何かと思って車を見ると、外車が私たちの脇に停まった。
 運転手を見ると運転手らしき人が乗っていて、後部座席には静さんが乗っていた。
 後部座席の窓が開く。と、
「今帰りか?」
「はい」
「すぐそこだが乗っていくか?」
「ありがたいです」
 静さんと司先輩のやりとりに、車に乗せてもらえることになった。
 助手席に司先輩が乗り込み、私は静さんの隣へ座った。