食器を下げに来た稲荷さんに掃除機を借りたい旨を話すと、
「掃除なら私が」
 稲荷さんの奥さんが申し出た。
「いえ、一階の秋兄が使っていた部屋だけはこの人に掃除させたいので」
「いえいえっ、坊ちゃん方に掃除などっ――」
「この人、羽毛布団と枕を引き裂いて部屋中羽だらけにしているので、その片付けだけはやらせたいんです。もちろん自力で……」
 冷たい視線を秋兄に向けると、秋兄は情けない顔で苦笑していた。
「さ、さようでございますか……?」
「えぇ、お手数ですが掃除機のみ用意してください」
「かしこまりました。すぐに持ってまいります」
 どこか残念そうな顔をしている秋兄に、
「だいたいにして、あんたいっつも尻拭いを蔵元さんと若槻さんにさせすぎなんだよっ」