秋斗さんはにこにこと笑ったまま私の返事を待っていた。
 来週には桃華さんたちにも話すつもりでいたし、秋斗さんにも話したほうがいいのだろうとは思っていた。でも、まさかこのタイミングで訊かれるとは思っていなくて……。
 完全に虚をつかれた気分。
「ダメ?」
 だめ押しとはこういうことを言うのだろうか。
 きれいな笑顔が少しの苦笑に変わる。
「無理に、とは思ってないけど、やっぱり気になるんだよね」
 秋斗さんも桃華さんと同じなのかもしれない。
 強引に訊きだそうとしているわけじゃない。ただ、心配だから知りたいだけ……。
 家族以外の人にこういう感情を向けられたことがないから少し戸惑う。でも、中学のときのように知られたくないという気持ちとは違う感情。
 申し訳なくて、心配をかけてしまう自分に自己嫌悪。でも、それとは別に胸があたたかくなるのを感じていた。
 嬉しいというのとも違い、自分を思ってくれる人がいることを幸せだと、そう思えるようになっていた。
「あの……」
「うん?」
「どう話したらいいのかわらかなくて……。今朝、蒼兄に相談したばかりなんです。だから、わかりやすく説明できるかわからないけれど、それでもよければ……」
「教えてくれる?」
「……はい」
 けれど、いざ話そうと思うとやっぱり言葉が出てこない。何から話したらいいのかがわからなくて。
「あの、紙に書いてもいいですか?」
「え? かまわないけど……」
 許可を得て、かばんからルーズリーフとペンケースを取り出す。と、思いついたものを片っ端から書き出した。




【低血圧(起立性障害)】

・ 正常値 上120~130 下80~85
・ 私の通常値 80/60 → 制約を守れば安全圏
・ 少し具合が悪いとき 70/50 → 要安静
・ さらに具合が悪いとき 70以下/40前後 → 意識不明になった場合は病院で処置が必要。
・ 血圧が低いため、血液循環量も少ない。
  → 走ったり息が上がるような運動をすると血液循環量が追いつかず、貧血を起こしたり
    血圧低下を招く。
・ 急に立ち上がる、起き上がる、寒いところから暖かい屋内へ入る、涼しいところから暑い屋外に
  出る。このような状況には体が順応できずに血圧低下を招く。
・ ただ立っているだけで血圧が下がっていき脳貧血になることも多い。
・ 昇圧剤を服用するも一定の効果は得られず。

【自律神経失調症】

・ 眩暈、頭痛、微熱、胃部不快感、冷え性、血圧の変動、動悸、不整脈。

【慢性胃炎】

・ 胸背部の痛みが起きる際に服用する鎮痛剤で常に胃が荒れ気味。
・ 現在も胃潰瘍後の経過観察中。
・ カフェインや刺激物を摂取すると、ひどいときには嘔吐する。

【慢性疲労症】

・ 疲れやすく、夜の睡眠だけでは体をリセットできないことがある。
・ 疲れが溜まると発熱、食欲不振、筋肉痛、リンパの腫れといった症状が現れる。




「これくらい……かな」
 秋斗さんが私側のソファに掛けなおし、書き出したものに目を通す。
「ちょっと待って……。ねぇ、これだけ血圧が低いって普通じゃないでしょ? 下手したら心不全とか――」
 秋斗さんは自分が口にしたことにはっとして口を噤んだ。