光のもとでⅠ

「少しは自分を取り戻したか……」
 その様子をじっと見ていると、視線に気づいたのかこちらを見上げた。
「おはよう。……司も一緒にどう?」
 誘われるとは思わなかった。
「たまにはさ、道場じゃないところっていうのもいいよ」
 秋兄の表情が柔らかかった。
 翠の前にいるとかそういうことではなく、もっと幼かった頃に見ていたような表情。
「……すぐに下りる」
 二階の玄関から出て秋兄のもとまで行く。
 それからは何を話すでもなく、ただ黙々とふたりで射法八節を繰り返した。
 弓がなくても、実際に射ることがなくても、神経を集中させることはできるし、何よりも心を空っぽにすることができた。