病室を出てナースセンターの前を通ると、栞さんは電話対応をしていた。そして、俺たちを視界に認めると、
「あ、ちょっと待って――」
 慌てた様子で呼び止められた。
 呼び止められたのは翠ではなく、俺。
「今、静兄様がここに向かっているみたいなの。司くんに用事があるらしくて、所在を明らかにしておくようにって」
「屋上にいると伝えてください」
「わかったわ」
 ……静さんが俺に用?
 身に覚えがない。
 栞さんは再度受話器に向かって話し始め、俺たちはナースセンターを通り過ぎた。
 静さんの用件も気にはなるが、それ以上に俺の隣をスタスタと歩く翠の姿がもっと気になった。