ドアを開けると蒼兄が窓際の応接セットでコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。
 いつもと変わらない光景。
「蒼兄、おはよう」
「おはよう、翠葉。体は?」
「うーん……午前授業はなんとかなると思う。でも、午後はちょっとわからない」
「そっか。そしたら保健室な」
「うん」
 ダイニングに行くと、キッチンのカウンター越しに栞さんと挨拶をした。
「本当なら私が迎えに行けたらいいんだけど……」
 と、顔を歪める。
「そんなっ、ご迷惑かけられませんっ」
「日中は実家の手伝いしているから難しいのよね」
 と、思案顔。
「……実家のお手伝いですか?」
「そう、母が茶道を教えているのよ。確か、藤宮でも週一で講師をしているはずなんだけど、会ったことない?」
 藤宮の茶道で講師って――。
「あの、もしかして……藤宮柊子先生のことです……?」
「あら、知ってるのね? その人が私の母よ」
 と、嬉しそうに話す。
「栞さん、私、茶道部員なのですが……」
「あらっ! じゃぁ、母とも知り合いなのね?」
「世間って狭い……」
 それが本音だった。
 いや、藤宮学園における藤宮一族の占める割合が多いというだけなのだろう。