「いつでも言いな。一緒に寝るから」
 優しい声がベッドの下から聞こえてくる。
「俺はさ、翠葉の悩みを聞いたり、ちょっとしたアドバイスをしたり、側にいることしかできないんだ。不安になったら手を握ってやる、そんなことしかできない。痛いって言ってるのをどうにかしてあげられるわけじゃないし、血圧を上げることもできない。それならさ、せめてわがままくらいは言ってほしいんだよね。それを叶えてあげられるなら、そうしたいと思うから」
「……わがままはたくさん言ってるよ」
「おまえなぁ……」
 ガバッと起き上がって私を見る。
「世の中にはもっと最悪なわがまま姫がわんさといるんだぞっ!? それに比べたら翠葉のわがままなんてかわいいもんだ」
 いったい誰のことを話してるんだろう? 蒼兄は雅さんを知らないし――。
 そこまで考えたら少しおかしくなった。
 わがまま姫イコール雅さんという方程式が自分の頭にできあがっていたことに。
「翠葉はもっと言っていいよ。俺が聞ける範囲なら喜んで聞くから」
 目を細めて穏やかな笑みを浮かべる。
「じゃぁね、わがままふたつ目」
「ん?」
「手、つないで寝たい」
「これはわがままっていうか……。ま、いっか。それくらお安い御用だよ」
 再び横になると、大きな手を「ほら」と差し出してくれた。
 その手を右手で取ると、とてもあたたかかった。
 おおきくてあたたかい手に秋斗さんの手を思い出す。
 すると、自然と目に涙が滲んだ。
 しばらくすると、抗いようのない睡魔に襲われ、そのまま眠りについた。