「ごめんなさい……」
 急いでベッドへ戻ろうとしたら、点滴スタンドをツカサに取り上げられた。
「休憩はできたわけ?」
「……携帯ゾーンまで行ってきたの。ちゃんとお水も飲んできた」
「あっそ……」
 点滴スタンドを定位置に置くと、さっきと同じようにツカサは私の右側に回った。
 でも、ツカサの手はベッドに置かれなかった。
 もう、手をつなぎたい、とは言えなくて、自分の右手で左手をぎゅっと握りしめた。
 左手はすぐ近くにあった携帯を手に取る。
 両手に握りしめる対象を得たことで、私の準備は整った。
「秋兄は、病院で目覚めた翠が髪を切ったことで自分を責めることを危惧していた。だから、入院してからは顔を出さなかった。逆に、俺は翠との約束もあったからできるだけ毎日病院へ来るようにしていた」