蒼兄は先日の秋斗さんのように、私の真横に座った。
「どうして断っちゃったんだ? 秋斗先輩のこと好きだろ? それに先輩とはうまくいってると思ってた。――触れられないから?」
 そっか……。大丈夫になったのはまだ誰も知らない。
「土曜日はだめだったの。手が触れるだけでもだめだったの。でも、今日は大丈夫で……。手をつないでお散歩して、抱きしめてくれてキスもしてくれて――すごく嬉しかった。でも、だめなの」
「……治ったのか?」
 コクリと頷く。
「でも、それでどうして断ることに? 何がだめ?」
 もういいよね。時効だよね。
「木曜日、検査の日、病院で雅さんに会ったの。そのときに言われた。秋斗さんには釣りあわないって。体が弱い人は、子どもを産めるかもわからない人にはその資格がないって、そんなようなことを教えてくれた。……それに納得しちゃったの」
「なんでっ――なんでもっと早くに言わなかった!? ハープをあんなふうに弾いてるから何かあったとは思っていたけど――」
 蒼兄が肩に腕を回し、自分の方へと引き寄せてくれる。
 その拍子にポロ、と涙が零れた。
「知られたくなかった……。口にして自分がもっと不安になるのが怖かったの。だって、誰かを好きになるのも初めてだったのに、いきなり結婚がどうとか子どもかどうとかって言われても話についていけなくて、でも、一度考え始めちゃうと私に恋愛なんてする資格があるとは思えなくて。自分の体ですら持て余してる状態なのに、人の何かを背負うようなことができるのかなって――。考えれば考えるほどに怖くて……」
「翠葉、おまえ抱えすぎだ。どう話してあげたらいいのかわからないけど、でも、翠葉はまだ十七歳になったばかりだろ? そこまで深く考えなくていいと思う。人には過去があって今の自分がある。そして、未来に何かを求めるから歩むものだとも思う。でも、何が一番大切かって言うなら、"今"じゃないか? 今の翠葉は先へ先へと考えすぎていて、現時点から一歩も歩けない状態になってるんじゃないか?」
 一歩も前に進めない――そうかもしれない。