チリンチリン――音と共に玄関のドアが開き、動きのなかった玄関に新鮮な風が入ってきた。
「っ……!? 翠葉、電気もつけずに何して――」
 何……? 何をしていたんだろう……。
「……力抜けちゃって……」
 蒼兄は荷物を置くと私の目の前にしゃがみこんだ。
「今日はまたえらいめかしこんだな。すごく似合ってる。先輩も褒めてくれたんじゃない? ……なのに、なんでそんな顔してる?」
 なんでって……。よくわからないことになってるからだよ。
「話せるか?」
「……すごく好きだと思ったの。でも……一緒にいられないとも思った。それを伝えたら、でも諦めるつもりはないから覚悟してって……」
「話しいっぱい聞きたいし、まずは玄関から離脱しよう」
 そう言って、腕を掴まれ引き上げられる。
 本当に、水底から引き上げられるような気がした。
 リビングのラグに座らされ、「ちょっと待ってろ」と言われる。
 私の頭は秋斗さんと別れたときから思考停止状態だ。
 少しすると、ホットミルクとお土産の生チョコが目の前に置かれた。
「翠葉、生チョコ好きだろ? ほら、口開けて」
 言われたままに口を開けると、表面にココアがまぶしてある生チョコを入れてくれた。
 ほろ苦いココアのあとに優しいミルクチョコレートの味が口に広がる。
「美味しい……」
「ホットミルクも飲んで」
 言われてカップに手を伸ばす。
 あたたかく優しいミルクが食道を伝って胃に流れ込んだ。