「ご飯を食べているときにお茶碗を落としてしまったことがあります。胸や背中以外にも痛みが広がっていること、お母さんに知られてしまいそうになって……。でも、そのときは唯兄が『拡散痛』とごまかしてくれました」
 あのとき、痛みが全身に広がっていることをお母さんに知られてしまったら、絶対に現場へは戻ってもらえなかっただろう。
「自分のせいで両親の仕事に影響が出るのは嫌だったんです……。いつもみたいに個人で請け負っている仕事ではなく、ほかの企業や多数の会社が絡む大きな仕事であることはわかっていたから……」
 それは去年の準備段階の時点からわかっていたこと。
「私は両親が嫌いなわけじゃなくて、側にいてほしくなかったわけでもなくて、私のせいで方々に迷惑がかかるのが怖かっただけ――」
 ……違う、それだけじゃない。