「今の答えは翠葉ちゃんが自分で出した答え? 俺は言ったよね? 誰に相談してもかまわない。でも、最後に答えを出すのは翠葉ちゃんだって」
 真っ直ぐに私に視線が注がれていることを感じる。でも、その視線に自分の目を合わせることができなかった。
「自分で出した答えです。理由は……私には誰かと付き合うなんて余裕がないから――」
「余裕がないなら頼ってくれればいいことじゃない? 俺はそれを望んでいるんだけど」
 これ以上に何か理由になりそうなものはないのだろうか……。
 ひとつだけ真実があるとするならば――。
「これからの私を見られたくないから……」
「……これからの翠葉ちゃん?」
「そうです。これからの私は飲む薬の分量が増えて、まともに日常生活も送れなくなります。それで一緒にいるのなんて無理だし、第一、そんな自分は見られたくない。話をすれば傷つけることを言ってしまうかもしれない。……好きな人を傷つけたいとは思わないでしょう? でも、これからの私はそんなコントロールすらできないほど余裕がなくなります。だから……だから、一緒にはいられません」
 取っ掛かりが掴めれば、意外とすらすら話せる。それに、今話したことは嘘じゃない。
「じゃぁ、待つ、かな……。翠葉ちゃんに余裕ができるまで」
 え……?
「何? 予想外って顔をしてるけど」
 だって、予想外です……。
「あのね、一度振られたくらいじゃ俺は諦めないよ? それに、俺を振るんだ。今後は覚悟しておいて。今まで以上に口説きにかかるから」
 笑みを深めたこの人は誰だろう……?
 いつもの秋斗さんだけど、でも、何か違う。
 強引というわけでもなく受身というわけでもなく、好戦的――?
 その言葉が浮かんだ拍子に、制服を着ている高校三年生の秋斗さんが頭によぎる。
「悪いけど、こんな断り方で俺が身を引くとは思わないように。うちの血筋は諦めがわるいことで有名なんだ」
 今度はいつものようににこりときれいに笑った。