ベンチはちょうど木陰に入っていた。
「座って」と促され、そのままベンチの端に浅く腰掛ける。
 秋斗さんはその隣に座り、
「返事を聞かせてくれる?」
 と、背もたれに左手をかけて訊かれた。
「――秋斗さん、あの……」
「うん」
 優しい声音が耳に届けば、また幸せなほうへと流されそうになる自分がいる。
 でも、いくら揺らいでもぐらついても答えは決めてきている。
「私は……秋斗さんがすごく好きです。でも――私は……私は……秋斗さんとは一緒にいられない――」
 言えた……。ちゃんと言葉にできた。
 けれど、一度肩に入った力はなかなか抜けてくれない。
「やな答えだね。……好きなのに一緒にいられないって何?」
「――ごめんなさい」
「……正直、水曜日までは振られるなんて少しも思ってなかった。それがどうして百八十度変わってしまったのかが知りたい。実のところ、藤山を散歩したときにはいい返事が聞けるかもしれないって期待したよ」
 水曜日まで――私が雅さんに会ったのは木曜日の午後。
 そのときから私の行動は不自然に見えていたのかもしれない。
 思い返せば、逃げ込むように仮眠室に篭った。
 藤山では自分から抱きついたようなものだ。
 期待させても仕方のないことをした。今日が最後だから、という自分の都合で。