秋斗さんの言葉を全部聞き終わる前に、秋斗さんの胸に額をつけた。
「すい、は、ちゃん――?」
「ごめんなさい……。少しだけ、少しだけでいいから……」
 そう言うと、秋斗さんの右手が背中に回された。
 しっかりと抱きしめてくれる。
「少しだけなんて、そんなもったいないこと言わないで。俺はずっと抱きしめていたい」
 このぬくもりが好きだった。とても心地よかった。
 離れようとしたら、逆に力をこめられた。そして、それまでよりも強く抱きしめられた。
「翠葉ちゃん、俺もひとつお願いしていいかな」
 ひとつのお願い。
 私が叶えられることならなんでも叶えたい。でも、答えは慎重に答えなくちゃいけない。
 この空気に、想いに流されたらだめ――。
「聞けるものならば……」
「……ずいぶんと答えまでに時間がかかったね」
 クスリ、と笑う。
「キス、してもいい?」
 至近距離でのお願いにドキリとする。
 ……今日だけだから。だから、いいよね?
 でも、キスをしたら気持ちが抑えられなくなりそう――。
「ごめん、訊いたけど答えを待てそうにはない」
 と、そのまま口付けられる。
「……んっ――」
 今までのキスとは違う。
 唇が触れるだけのキスではなかった。
 離れたかと思えば角度を変えてまた口付けられる。
 口の中を秋斗さんの舌が這い、私の舌に絡み付く。
 どうしたらいいのかわからなくてなされるがまま――。
 そうしているうちに唇は放され、ぎゅっと抱きしめられた。
「返事聞かなくてごめん。それから、びっくりさせてごめん」
 抱きしめられたまま、フルフルと首を横に振る。
「でも……我慢できないくらい、そのくらい好きだ」
 心臓はすでに駆け足を始めていて、うるさいくらいにドキドキ鳴っている。
 背中に回された腕が緩み、秋斗さんの顔を見上げると、
「歩こうか……」
「はい……」