すでに病室にはオムライスの匂いが充満していたけれど、それで吐き気を感じることはなかった。
「……大丈夫みたい」
 その言葉にほっとしたのか、栞さんはスツールに腰掛けた。
「痛みは落ち着いているの?」
「はい……とくにひどく痛むことはないです」
 鍼での痛みに対するアプローチはまだされていない。
 相馬先生が帰ってきた日に施術されたカイロプラクティックのみだ。
 徐々に痛みが出始めているのはわかっている。
 でも、やっぱりどこからが我慢でどの程度の痛みで先生を呼ばなくちゃいけないのかがわからない。
 以前、昇さんに怒られたから、蹲るほど痛くなる前には言おうと思っているけど――。
 その線引きがとても難しいと思う今日この頃。
「そういえば、涼先生覚えてる?」
「あ、はい。一度だけお会いしたことがある先生……消化器内科の」
「そう、その涼先生が一時に屋上の裏に来てください、って言ってたわ」