『藤宮司、あんた絶対に入賞しなさいよ? 翠葉の記憶が戻って、あの子が自分を責めるようなことがないように、絶対よっ』
「そのつもり……。入賞しておかないと、翠の記憶が戻ったときが怖いからな」
『わかっているならいいわ。せいぜいがんばるのね』
「……電話、助かった」
 通話を切って一息つく。
 気分的には窒息しそうな気分だった。
 肺に溜まった二酸化炭素を全部吐き出し、ガラス窓の外に見える空を見上げる。
 今の翠に近寄ってこられても、どうしたことか俺は身動きが取れない。
 せめて、秋兄と会ったうえで俺に興味を持ってほしい。
 たぶん、選んでほしいんだ。
 翠に、俺という人間を――。