「……だとしても、今は呑み込めない。秋兄を知らずに自分を好きになられても嬉しいとは思えない」
『嫌みったらしい性格しているくせにバカ正直ね。忠告はしたわよ? それに私は……翠葉が泣かずに済むならそれでいい』
 そうだった。
 簾条は俺の味方でも秋兄の味方でもない。
 ただひとり、翠の側につく人間。
「……助かった」
『はっ!?』
「翠から電話があって、あまりにも言われ慣れないことを言われたから思考停止してた」
『で、なんで私に電話なのよ……』
「翠が記憶を無くしたことを知っている人間は少ない」
『なるほどね……。夏休み中に思い出せるといいのだけど……。今はまだ大多数の人間に知られるのは得策じゃないわね』